たまに、自動車が迎えに来てくれる。

たまに、自動車が迎えに来てくれる。
おかあちゃんに会いに行くよ、と言われて、嬉しくてたまらない。
おとうちゃんと、わたしと、ふたつ下の弟と、三人で自動車に乗って、おかちゃんに会いに行く。
どれだけ大きな屋敷だったか、どれだけりっぱなお庭があったか、どれだけ甘いおいしいお菓子が出されたか。

平成20年に初美おばあさんは思い出す。
「母は、お部屋で縫い物なんかして待っていてね。綺麗な着物を着ていたよ。友達が三鷹の戸建てに住んでいるのです。お乳をやるだけじゃなくて、なにか縫いものなんかのちょっとした仕事もあったんだろうね。」
「庭に野球場があったよ。屋敷には何人か子供がいたから、いっしょに庭で遊んでもらった覚えがあるなあ。」
なんと、天皇家の血筋の子供たちと遊んだとは。
わたしは何度もその屋敷のあった場所と地名を聞きだそうとしたのだが、初美おばあさんは地名はとうとう一度も言えなくて、わたしも戦前はもっとたくさんの家があったという天皇家の家の場所はわからない。ただ、屋敷の中で野球ができたということを繰り返して教えてくれた。

「そうやって何度かおかあさんに会いにいって、お屋敷に泊まってきたことはないの?」
わたしは尋ねた。
「泊まったことは一度もないね」
「それじゃあ、おかあさんがあかちゃんを連れて家に帰ってきて泊まったことはあったんでしょう?」

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